Ⅳ 探究の入口
「情報読書」を効率的に行うために、「あらまし読み」の技術を使いましょう
●自分の課題探究のために、多様な見方を複数冊の本から収集します
●自分の課題探究のために、短時間でできる効率的な読書が必要です
●少しずつ読みながら、メモをし、他者に話すことで内容を確認できます
「あらまし読み」活動をやっていると、学生さん達から「切実な声」が聞こえてきました。
この声を聴いていると、大学で「情報読書」の方法を教えていないことが原因して、授業に必要な本を読むように計画していない多くの先生たちの姿が見えてきました。「読みなさい」と言っても、どうせ学生は読まないだろうという諦めの様子もうかがえます。心ある先生方は細々とでも学生に読みの大切さを伝える授業をしていらしゃることは聞こえてきます。
こうした状況を受けて、基本的な情報読書の本を「掬い読み(あらまし読み)させる方法」に気づかせていきたい、骨太でシンプルな読書メソッドを伝えたいと思うようになりました。1冊すべて読まなくても、本に書かれた重要な言葉は、学生に浸透していきます。授業で進める前の「あらまし読みという基礎読書」を予習として、本の重要なところを「語・語句・短文」から理解させていきませんか。複数の本からの「共通言語」を使って、授業での課題を学生に考えさせていくプロセスにこそ、学びの姿があると考えています。
授業の前に短時間で、
課題へのキーワードを掬い出せる「あらまし読み」の有効性は大きいと提案します。
「あらまし読み」では、短時間で、1冊の本のあらましをつかみ、
重要な「語・語句・短文」(話題)を拾い出していきます。
こうした複数の本からの「共通言語」をもとに、
つぎのステップである「授業」では、さらなる対話へと発展させていきたいものです。
この「あらまし読み」を支えてくれている理論は、石黒圭(2010)『「読む」技術』光文社新書のなかに書かれている「話題ストラテジー」と「取捨選択ストラテジー」です。
読みのストラテジーは、ほかに味読の3ストラテジー、精読の2ストラテジーがあります。
関心のある方は、『「読む」技術』を読んでみてください。
ここに少しだけ、紹介しておきます。
日本では、「読書」というと「通読」しか知らない生徒さんや学生さんが多くいます。
しかし、日本語研究をしている石黒圭の読みの技術の中に「通読」は入っていません。
「速読」「味読」「精読」と大きく3分類、さらに8つのストラテジーに分けています。
このことから、私たちは、暗黙知になっていた「読みの技術」を改めて知ってみること、
そこから、新しい読みの力をつけることができると考えています。
石黒圭「8つの読解ストラテジー」
読み |
読解ストラテジー |
|
速読 |
話題 |
知識で理解を加速する |
取捨選択 |
要点を的確に見ぬく力 |
|
味読 |
視覚化 |
映像を鮮明に思い描く力 |
予測 |
次の展開にドキドキする力 |
|
文脈 |
表現を滑らかに紡いで読む力 |
|
精読 |
行間 |
隠れた意味を読み解く力 |
解釈 |
文に新たな価値を付与する力 |
|
記憶 |
情報を脳内に定着させる力 |
( 石黒圭(2010)『「読む」技術』光文社新書 p.53)
注) 石黒圭『「読む」技術』光文社新書にある8つのストラテジー。石黒圭は、2021年現在、国立国語研究所 日本語教育研究領域 代表・教授/国立国語研究所 研究情報発信センター長/一橋大学大学院 言語社会研究科 連携教授
「話題ストラテジー」や「取捨選択ストラテジー」を駆使できるように工夫した「あらまし読みシート」を使うことで、読書のハードルが下がります
●読書するジャンルによって、8つのストラテジーの働かせ方が異なっていて、
ジャンルによって複数のストラテジーを駆使しながら読むことにもなります。
●「情報読書」には、「話題ストラテジー」と「取捨選択ストラテジー」がポイントとなります。
●これからの「読書教育」を考えるにも、こうした「読みの技術」を意識して、先生方は指導していくことが必要になるでしょう。
そして、生徒や学生が「自律した読者」になっていくことを期待しています。
「あらましメソッド」を作った背景や理由をよく読んでくださいました。
最後の章では、
Ⅴ あらましメソッドの効果を紹介します。
2013年度から大学初年次教育「あらまし読みとレポート作成」の授業を継続してきました。 学生の皆さんからの振り返りレポートを、計量分析した結果をもとに報告します。