「あらまし読み」で複数冊の本を読み、レポートを書く練習をします。その後、一連の階段状の学びの方法全体を「あらましメソッド」と名づけています。
この「あらましメソッド」体験の大学の受講生たちが気づいたことを以下のピラミッドにすることができました。
「あらましメソッド」の効果
1. 読みのハードルを下げる
2. 読みの可視化と思考
3. 対話で「読み」の確認
4. 俯瞰的な見方を養う
5. 隙間時間のフル活用
牧恵子「大学初年次教育における『レポート作成のための読書教育』の試み
— 計量テキスト分析による『学習者の気づき』の検討—」2021,愛知教育大学大学院国語研究29.
https://aue.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=7891&file_id=15&file_no=1
「あらましメソッド」は、新書などの目次のある本を複数冊自分で選び、自分の課題を探究しながら「あらまし読み」を行う。そこから2冊を選択して、2冊を列挙、比較などを行い、レポートを書くという方法の全体を指します。
この実践は、2013年度大学1年生を対象に牧恵子が開始し、2021年10月で、9年目になります。受講生は3大学、1000名を越えます。コロナ禍の2020年11月「図書館総合展ONLINE」に出展したことが契機になり、ZOOMを使用した「あらましメソッドONLINE」を開始しました。そこから、一気に日本全国の高校や大学図書館関係者、教科担当者、出版社、企業などの方からも関心を持っていただきました。高校や大学の研究会に呼ばれて、「あらましメソッドONLINE」のワークショップも行っています。
ここまで、「読書教育」を含めた「レポート作成術」を拡大してこられたのは、授業後に受講生から受け取る「あらましメソッドが面白い」、「集中できる」、「効率的にレポートが作成できる」、「ありがとうございました」などの受講生の言葉があるからです。授業担当者は、どのクラスであらましメソッドを行っても受講生の90%以上から、嬉しい言葉を受け取ってきました。
確かに、日本では今まで、たくさん読みましょうという「読書支援」には熱心でしたが、まるごと1冊を相手にした、本格的な「読書教育」はあったのでしょうか。
2019年に、本メソッドへの協力者が現れ、調査数はまだ少ないのですが、「学習者の気づき」を計量テキスト分析し、上記のピラミッド図に明らかにしました。協力者は、株式会社SCREEN
ASアドバンストシステムソリューションズの中村康則・周景龍です。計量テキスト分析は、樋口耕一(2014)の開発した KHCorder Version3.Alpha.13aを用いました。
①基本レベルでは、「たくさん読むことができる」「短時間で読むことができる」の2点があげられました。新書などの読みたくても読めなかった本がたまっていた大学2、3、4年生、小説やマンガしか読んだことのない大学1年生には、読みのハードルを大きく下げることになりました。1か月に1冊も読まない「不読者」たちが、1か月に2冊程度の本を手に取るようになったことは大きな変化です。
さらに、隙間時間に読書する習慣も生まれ、短時間に、効率よく読んでいます。
②発展レベルでは、「知識を広げることできる」「共通点・相違点を比較できる」「異なる視点を発見できる」「考え方の偏りを防ぐことができる」という、俯瞰的な視野が持てることに気づきました。新書などの大学生に多読してほしいジャンルの本を手に取らせ、自分の興味・関心に沿って、広がりのある視点を持てることが楽しさになっていくようです。
複数冊の本から、多様な「視座」を持てるだけでなく、「あらまし読み」をする途中で、メンバーと1分間対話を繰り返すことからも、自分の読みを深め、読みの多様さに気づけます。レポートを提出する際にも、知り合い、他の大学の学生、家族などからコメントをもらい、交流を欠かしません。
③応用レベルでは、「図書館の利用がうまくなる」「参考文献の選定に活用できる」「他の科目に活用できる」と、数冊読んだ「あらまし読み」の本を軸にして、自分の読書生活と大学の学びが確実につながってきています。大学生は、大学院へ進学したり、社会へ出て働いたりと新しいステージに進んでいきます。高校生も、同様です。こうした学びのプロセスで、すべてのページが読めていなくても、「話題」を知っていること、「情報」を知っていることは貴重な自己蓄積です。1冊の本を、2度読み、3度読みしながら、自分にとって貴重な本はどれなのか、見極める力もついてきます。
最近の大学附属図書館は、夜遅くまで開館してくれます。住まいの近くの地域図書館、他大学の図書館も活用しやすくなっています。コロナ禍で、電子書籍の貸出も増えてきました。図書館のサービスも進化し、時代にあった形へと変わりつつあります。読み手も、それに合わせて、フルに活用しましょう。
本を読むという独りぼっちの活動も、ONLINEがある御蔭で、複数の人と本を読み合う読書教育が可能となりました。ヒトは「孤読」に読むのではなく、だれかとちょっとだけ話しながら読むと、とても楽しく広がっていきます。理解も深まります。
「あらましメソッドONLINE」の2時間ばかりのワークショップで、1冊の自分の読みたい本がつかめてしまうという効率のいい読書教育を利用して、自分の「読書生活」をオリジナルに創ってみませんか。
新書などの読書の「はじめの一歩」をお手伝いする、「あらましメソッドONLINE」です。
2020年~ 「あらまし読み」の授業・セミナーに参加した中学・高校の生徒さん、大学の学生さんからの声からの学び
・ 知識の本もおもしろい➡知識読書の体験
・ 読みたい章だけ読む、が新鮮➡読み方の発見
・ 短い時間だったけれど、本の内容がわかった気がする➡俯瞰的な読みへの気づ き
・ 興味について知識を得た➡情報ゲット(=得した感)
・ 話すのが楽しい➡レクリエーション感覚
・ 寝る前に15分本を読むようになった➡読書の自律的習慣化
・ 6冊あらまし読みして、意味がわかった➡複眼的思考法への接近
・ もっと早く教えてほしかった(大学院生) ➡初等・中等教育の読書教育への契機
・ 是非、ほかの学生に広げてほしい➡学生からの要望
現代は、なにをしていても「忙しい」と感じることが多いようです。
スキマ時間を活用して、身近にある図書館の空間も活用し、
忘れ去られている「読書」という方法を、改めて見直してみましょう。
「読書」というと、文学や小説と固定観念を持っている人は、ぜひ、この機会に
見方を変えて、柔軟に「読むジャンル」と「読む技術」を広げ、他者(メンバー)と
共有しながら読み広げていきましょう。
ほんとうに、自分の精読するべき本が見つかるはずです。